やみつきジャパン!

若年性パーキンソン病と闘う札幌在住独身サラリーマンの備忘録ブログです。

部屋を去る女

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 この部屋には私の3年間がある。楽しいことばかりではなかった。何度も彼と喧嘩し、何度もこの部屋を離れた。最後は、いつも彼が折れてくれて、私はこの部屋に戻ってくることができた。

  しかし、今回ばかりは彼も折れなかった。私は根負けして、この部屋を去ることにした。昨日、丸一日かけて荷造したダンボールを、自分の車の後部座席に乗せては、新居に運び込む。新居には、こことは違い私だけの部屋がある。新しい家で新しい生活が始まる。

 新居のドアを開けると、汗だくになった彼がいた。

「おい、あんまり無理すんなって、荷物は俺が取りに行くって言ったろ? お前はこっちでテレビでも見て待ってろ。お腹の子になんかあったらどうすんだよ?」

 エアコンがついていない真夏の部屋で彼が額から玉の汗を流しながら慌てている。私はもう安定期だ。少し動いただけでお腹の子に影響する時期ではない。不謹慎かもしれないが、まだ赤ちゃんが無事産まれてくるかさえ分からない。それを考えると引っ越しするのもまだ早い。住み慣れた狭い1DKを離れるのは名残惜しいが、この新しい家で、私は彼とお腹の子の3人で、思い出を作るのも悪くはないだろう。

「いいから荷物をよこせって」

 彼が私の持っていたダンボールを取り上げる。本当に心配性な彼だ。そして、ちょっと汗臭い。

 

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