やみつきジャパン!

若年性パーキンソン病と闘う札幌在住独身サラリーマンの備忘録ブログです。

俺の彼女は諦めが悪い。

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 毎週土曜、彼女は俺のところへ会いに来る。時間もきっかり朝の9時。俺の意思なんてお構いなしだ。悪い気はしないが、逢う度に一週間何があったかを聞かされるのは疲れる。彼女は俺が黙って聞いているだけで満足なのだろう。

 「おはよう。ケンちゃん。今週は月曜から大変だったんだよ? 先輩が発注したものが台風の影響で入荷が遅れてね、お店に並べられなくなって陳列やり直しになったの。それなのに新人の子がインフルエンザになって急に休んじゃって、人が足りなくてね。ねえ、ちゃんと聞いている? それでね……」

 彼女は俺が返事をしなくても、話し続ける。こんなやり取りが毎週とはいえ、1年は続いている。いい加減、話しかけるのを諦めてくれないだろうか。返事もしない俺なんてつまらないだろうに。

 

 「なあ、たまにはデートしようぜ?」

 最近、俺は毎日のように彼女へ電話している。

「この前、日帰り旅行に行ったでしょ?」

 毎日話しているせいか彼女の態度は冷たい。

「この前って、3カ月前だぞ? 電車で3駅の距離なのに会えないっておかしいだろ?」 

「仕方がないでしょ? 平日は残業だし、休日だってやること多くてそれどころじゃないんだから」

「これから逢いに行ったらダメ?」

「無理。明日も早いし、今日は残業で疲れたからもう寝たい」

「前から言っているけどさ。結婚しようぜ? 一緒に暮らせば嫌でも顔合わせられるんだしさ」

「嫌でも? 嫌なら一緒に暮らさなければいいんじゃない? どうせ、好きな時にやりたいだけなんでしょ?」

「ミナ、お前なあ、今時、自分から結婚したがる男なんて俺ぐらいなもんだぞ? それに、やるやらないの問題じゃないだろ? 付き合っているのに3カ月も顔を見ていないっておかしいだろ? 顔を見ないと心配になるもんだぞ?」

「何が? 何が心配なの? 浮気? ケンちゃんは私を信用していないの?」

「そうじゃねーよ。お前、休日もほとんど休んでいないだろ? 生きてっかなーとか心配になるんだよ!」

「あんたは私の母親か! 元気かどうかなんて電話で分かるじゃん。生存確認お疲れさん!」

「なんだよ! 俺は真面目に話してんだぞ?」

「そもそもさ、ケンちゃんの稼ぎが少ないせいでしょ? せめて手取り30万持ってきてよ? そしたら私も無理しないで済むんだから」

「俺の給料が安いから結婚できないのか? 共働きの選択はないのかよ?」

「前から言っているけど、一緒に暮らし始めたら、絶対回数増えるよね? 子供できたらどうすんの? 産休は給料出ないんだよ? 出産手当金は出るけど給料の3分の2ぐらいだし、子育てにかかる費用考えると、今しっかり稼いで貯金しておかないといけないんだよ、分かる?」

「いやいや、結婚というか、同棲したからといって絶対子供ができるわけじゃないでしょ?」

「でも、やるよね?」

「やる……ね。そりゃそうでしょ。付き合っているんだから」

「だから? だからって何? ほら、やっぱりやりたいだけじゃん!」

「ああ分かったよ。もう俺から逢おうとは言わないよ!お前が謝るまで電話もしないし、話もしない。返事もしないからな!」 

 

 「おはよう。ケンちゃん。今週は月曜から大変だったんだよ? 先輩が発注したものが台風の影響で入荷が遅れてね、お店に並べられなくなって陳列やり直しになったの。でも新人の子がインフルエンザになって急に休んじゃって、人が足りなくてね。ねえ、ちゃんと聞いている? それでね……それで、ケンちゃんいい加減返事してよ。何度でも謝るから、いつまでも無視しないでよ。私を独りにしないでよ……」

 蝉の鳴き声が響く真夏の晴天の下、ミナはしゃがみこんで泣き出す。目の前に建つ墓石には去年の日付が彫られている。そして、ケンの名前も彫られていた。去年の今日、ケンはバス事故に遭った。ミナと仲直りすることなく、その日、ケンの時間は止まってしまったのだ。

 ミナは二度とケンと会話することができない。そして、顔を合わせることもできない。2度と逢えないのだ。それでもミナはケンに遭うため、毎週土曜の朝9時に霊園へ来る。ミナの時間もまた、あの日、止まってしまったのだ。

 

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