やみつきジャパン!

若年性パーキンソン病と闘う札幌在住独身サラリーマンのショートショート小説公開ブログです。

夏の雨と二人の男

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 旦那や彼氏の携帯を見るべきではないと、よく聞くがあれは本当だ。私が見たのは旦那のノートパソコンだったが、あれのおかげで私の人生は奈落の底に落ちてしまった。見つけたのがエロ動画なら私も呆れるだけで済んだのだが、私が見つけたのは、ブログだった。

 休日出勤の私が会社の鍵を忘れて家に帰った時、リビングに置かれていた旦那のノートパソコンには書きかけのブログが表示されていた。その時は時間がなかったので、ブログのタイトルだけをスマホにメモして、会社に向かった。そして、その日の夜、私はやめればいいものの興味本位で旦那が書いているブログを探ししてしまった。ブログ上の旦那は会社経営をしており、愛妻家で共働きの妻のために進んで家事をやっているそうだ。しかし、実際の旦那は、私より早く家に帰っても晩御飯を作らず、お風呂も沸かさず、部屋に籠っているだけだ。それに会社経営なんかしておらず、万年係長で稼ぎも私より少ない。ブログ上の理想の旦那様は虚構の存在だ。

 旦那のブログには、相当な数の読者がおり、その読者たちはみな私の旦那が立派だとコメントをしていたが、私には彼らを理解することはできない。愛妻家なら妻との時間を大事にしないだろうか? ブログを書いたり、Twitterでつぶやく時間があるだろうか? 仕事終わって寝るまでの間、ブログとTwitterに費やしている男が愛妻家なのだろうか? ブログには、妻にバレたらブログをやめると書かれていたが、妻に内緒でブログを書くことが、やましいことだと自覚しているのなら、なぜやめない?

 私は旦那のブログを読めば読むほど苛立ちを覚えた。今すぐにでもリビングから2階の旦那の部屋に押しかけて問い詰めたい衝動に駆られた。そんな時、気になるブログの記事を見つけた。旦那は私以外の女にプレゼントを贈っていたのだ。それもブランド物のバッグだ。私ですら買ってもらったのは結婚する前の誕生日の時だけだ。結婚後は将来生まれてくる子供のためにと、お互い無駄使いせず貯金することにしたはずなのに、旦那は他所の女に金を落としている。

 私の中の何かが壊れた。怒りも悲しみもなく、ただただ死にたくなった。旦那が部屋に籠っているのは仕事か、仕事のストレスを発散するためと、自分に言い聞かせて、自分を押し殺して、広い一軒家のリビングで一人でテレビを見る生活を送ってきたのに、今まで色々我慢してきたその我慢が全部無駄だった。ブログのやりとりを見ただけの判断になるが、まだ肉体関係はないようだった。しかし、私へのメールにもつけたことがないハートマークのついたコメントのやりとりは、とにかく気持悪い。妻がいる男が他の女とハートマークのやりとりなんて、ただただ気持ち悪い。虫唾が走る。肉体関係がなくとも、私はあれだけで浮気だと感じた。

 外は雨が降っていた。真夏とはいえ、雨は冷たい。私はいつまにか家を出て、雨の中、傘もささず歩いていた。なんか全てが馬鹿馬鹿しく感じ、全てが信用できなくなった。雨に打たれたおかげか死にたいという気持ちは冷めていたが、滅茶苦茶になりたいという衝動だけが残っていた。歩き疲れ、知らない公園のベンチに座ってうなだれていると、あれほど強かった雨が私に当たらなくなった。

「どうしました? 何かありましたか?」

 柔らかく落ち着いた男性の声がした。顔をあげると目の前には青い傘を差した笑顔の青年が立っていた。

 窓を叩きつける激しい雨音と雨による部屋の湿度が私と彼を開放的にしてくれた。吸い付くような肌の感触と彼の顔から流れ落ちる汗が私の全てを包み込んでくれた。時間を忘れ何度もむさぼり合うように私は彼を求めた。絡める舌、混ざり合う唾液、首筋から流れ、私の胸、下腹部、太もも、彼は全てを求めてくれた。抜き差しだけのつまらない旦那と違い、彼は私の反応を見ながら、目で、舌で、指で、彼自身で、私を満たしてくれた。

 日付が変わり、雨も晴れ、太陽が出て外も明るくなっていた。私は仕事をさぼることにした。私がシャワーを浴びている間、彼が朝食を作ってくれていた。ゆで卵とハムとレタスのサンドイッチに牛乳。簡単な食事だが、今の私にはこの朝食が愛しくて仕方がない。このまま家に帰らず、彼とこの部屋でずうっと一緒にいられたらどんなに幸せだろうか? 私は彼となら幸せになれるのではないか? 

「俺、今日、大学午後からなんだけど、どうする?」

 彼は大学生だった。年齢を聞いたら私より8歳も年下だった。私は彼のことがもっともっと知りたくなった。彼の部屋を隅々まで見て、部屋に置かれているロダンの考える人の像を見つけ、彼が美術に興味があることが分かった。座布団の柄が猫だったので猫好きなのだろう。この部屋には彼の全てがあると思うと私はこの部屋から離れたくないという気持ちが強くなった。ただ、彼の部屋に置かれている家電製品が少し高級なものであることに気がついた。

「これ、高いやつでしょ?」

「高いね。でも、俺、収入あるから」

 彼は大学生だったが、ネットビジネスでお金を稼いでいると話してくれた。

「それと、ブログもやっているんだ」

 私は凍り付いた。私の旦那もブログをやっていた。そしてブログで浮気して、女にブランドバッグをプレゼントしていた。

「俺のブログは広告収入がメインなんだけど、たまに知らないおじさんからプレゼントがもらえるんだよ。あいつら馬鹿でさ。俺が女だと信じ切っていて、なんでも買ってくれるんだよ。この前も、このブログのおじさんがこのバッグをくれたんだよ。」

 彼が表示したブログは私の旦那のブログだった。 

 「こいつの奥さんも、本当に馬鹿だよね。旦那が数十万も使っているのに気づかないんだからさ」

「この人とは会ったことないの?」

「ないよ。会ったら俺が男だとバレるじゃん。プレゼントも住所がバレないサービスを使用してもらっているから、相手には俺がここに住んでいることも分からないんだぜ。凄いだろ?」

 私は立ち上がって、考える人の像を持ち上げた。そして、思いっきり振り落とした。彼の頭の上に。 彼は真っ赤に染まって床に横たわった。私の中の何かがはじけ飛んだ。スッキリした。昨晩の体験よりも快感だった。私は考える像を持ったまま、旦那が待つ家へと走った。今度は旦那が私を満足させてくれるはずだ。いきなり頭だとつまらないだろうから、まずは両足からだ。動けなくしたら腕と腰か? 今から楽しみだ!

 

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