やみつきジャパン!

若年性パーキンソン病と闘う札幌在住独身サラリーマンのショートショート小説公開ブログです。

とりあえず河童の皿を割ろうか?

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 休日の昼、俺は同僚のレイちゃんと定山渓温泉に来ていた。

  社内恋愛の何が面倒くさいと言えば、近所でデートすると社内恋愛がバレてしまうことだ。お互いに覚悟が決まるまでは、遠方でお忍びデートすることになる。公共交通機関を使うのも危険なので、移動はいつもマイカーだ。車を走らせること1時間。月一で楽しむ温泉デートは実に楽しい。

「あっ、この河童かわいい! 写真とって、ハイ」と言って、レイちゃん俺にはスマホを渡す。

「ハイ、ヨーグルト!」

 俺はレイちゃんが河童の銅像に抱き着いている写真を撮る。

「あのさー。そういうのいらないから。チーズでいいから。もう一回」

 レイちゃんは年下なのだが、毒舌で少し怖いところがある。性格はきっちりとしていて、いつも自分の部署の上司を怒っているぐらい仕事熱心だ。あの怒っているレイちゃんがまたかわいくて俺も惚れてしまった。しかし、自分が怒られるのは気分がいいものではない。俺の心は少し凹(へこ)んでしまったが、夜は下半身が凸(でこ)るのだから、差し引き0としよう。

「じゃあ、撮り直すよ!ハイ、チーズ!」

 銅像に抱き着くレイちゃんの満面の笑み。まさにプライスレス! これは差し引き0どころではない。レイちゃん、今夜は寝かさないぜ!ヒャッホー!

「上手く撮れた?」

 スマホで自分の写り方を真剣にチェックするレイちゃんもかわいい。

「まあまあかな。よし次、行こう!」

「ちょっと待ってよ。俺とのツーショット、いや河童もいるからスリーショット撮ろうよ!」

「はぁー? そんなん撮って誰かに見られたらアウトでしょ? ダメに決まってんじゃん。それと、この前みたいにブログで書いたら殺すからな。」

「匿名でもダメ?」

「ダメ。」

 あははっ、レイちゃんマジで怒っている。さすがにこれはかわいくない。わきの下をツーっと冷や汗が流れ、俺の体も本能的に恐怖を覚えているらしい。流れを変えないと延長戦どころかナイトゲームすら行われない可能性も出てきた。これはまずい。散歩を終えるまでに何とか満塁ホームランを打たなければ、夜はベンチ入り確定となってしまう。空気を変えるためにも早く別の話題にすり替えなければ。

「そういえば、なんで河童の銅像があるか知っている?」

「河童の目撃情報があるからでしょ?」

「これから探さない?」

「河童を?」

 これはどっちだ? このままストレートを投げるべきか? それとも変化球か? とりあえずストレートで行くか。

「河童を」

「うーん。そうだね。他にすることないし、探すか!」

 どうやらストレートで正解だったらしい。 俺たちは観光案内で地図をもらい、地図に書いてある河童ゆかりの場所を二人で巡ることにした。まずは河童の出そうな川へ向かった。岩肌のコケで滑るため、足元に気をつかいながら手をつないで川のそばまでやってきた。周囲を囲む緑と川底が見えるぐらい透き通った清流の風景がとにかく絶景で、靴を脱いで水遊びを始めたレイちゃんの美しさと相まって最高の景色が完成した。

「ミーちゃんも入りなよ! 足、気持ちいよ!」

 定山渓に来て正解だった。今夜はベンチ入りでも構わない。俺は最高の瞬間を手に入れたのだ。

「今、行くから。ちょっと待ってて!」

 俺は素足になってレイちゃんの下へと向かう。水遊びなんていつ以来だろうか? 川の流れが俺の心を洗ってくれる。こういう何気ないことが楽しいと思えたのはいつ以来だろうか? 

「ミーちゃん、河童ってなんでキュウリが好きなんだろうね?」

「えー何、突然。理由なんてないんじゃない?」

「考えてよ? 頭いいんだから」

「うーん、あれじゃない? 好きだからでななく、仕方がなく食べるんじゃない?」

「どういうこと?」

「よくミカンを食べ過ぎると肌が黄色くなるって言うでしょ? 河童は自然に溶け込まないといけないから、保護色である緑色になるためキュウリを食べているんだよ」

「えーそれじゃあ、ピーマンでもよくない?」

「ピーマンは生で食べると苦いから」

「なるほど! さすが、ミーちゃん!」

「満足していただけましたかな、レイお嬢様」

「まだ」

「まだ?」

 とっさにしては渾身の回答をひねり出したのに、まだ満足しないとは! レイちゃんは欲しがりさんだな。

「ならさ、なんで皿あるの? あれ割ったらやっぱり死ぬの?」

 知らねーよ! 俺は河童じゃないし、河童博士でもないんだから!

「うーん、あれだよ。あれ。そうそう、あれは実は皿ではなく、スポンジなんだよ」

「スポンジ? 皿でなく?」

「昔はスポンジがなかったら、見た人が勘違いしただけで、あれはスポンジ状の組織で水を吸収して蓄えるんだよ。河童が日射病にならないために」

「ほう、なるほど。それは面白い」

 どうやらレイちゃんも納得してくれたみたいだ。この様子なら今夜はホームランだぜ。ヒャッホー! ヒーハー!

「さっきから黙って聞いとったら勝手なこと言いおって」

 甲高い声がしたので、俺は後ろを振り返った。

 小学生ぐらいの背丈で、全身緑色、後ろに甲羅を背負って、頭に光沢のある皿がある。本物の河童だ!

「わしらが好きなのは野菜のキュウリや。魚のキュウリ。キュウリウオや。だいたい川に住んでいるのになんで野菜を食べなあかんねん」

 河童らしき生き物は、なぜだか関西弁っぽい話し方で怒っている。

「よく見てみ、皿もあるで?」

 バシャバシャバシャっと足で川の流れを切りながら、レイちゃんが無言で河童に近寄って行く。

「どうや? 皿やろ?」

 ゴツン!

 「痛ったー。結構、皿、硬かった!」

 レイちゃんが河童の皿を殴り、あまりに硬くて手が痛かったらしい。

「何すんじゃこのアマ! 割れたらどうすんじゃボケ!」

 その場で膝をつき、皿を両手で抑えながら河童が激怒している。河童だけでもレアなのに、河童の皿を殴る女と激怒する河童という光景を目撃したのは、俺が世界で初めてなのではないだろうか?

「いや、なんか、しゃべり方が上からで、ムカついたから割ろうかと」

「はぁ? ふざけんな、このアホが!」

 ガツン! 今度はレイちゃんのかかと落としが河童の皿に直撃している。これまた貴重な光景だ。

「ああ、やっぱ硬いわ。マジ、この皿、硬いわ。」

 川の中でうずくまって痛がる河童が起き上がった。

「このクソアマ! いい加減にせいや! おい、そこの旦那、嫁のしつけがなっとらんぞ!」

「あっ、その人、旦那じゃないんで」

「なんや、お前ら、連れだってんのに、契りもしておらんのか? まあ、ええわ。おい、彼氏さん、このアマ、最悪だぞ。今すぐ別れろ!」

「いえいえ、そもそも私たち付き合っていないんで、ただの同僚ですから」

「えっ……」

 俺はレイちゃんの彼氏だと思っていたのだが、どうやらただの同僚だったらしい。河童に、ただの同僚、今日は驚きの連続ばかりだ。

 

 

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